【一級建築士製図】一発不合格ミス・法規一覧(解説あり)

一級建築士の製図試験には、一発不合格となるポイントがたくさんあります。
いくらプランの内容が良かったとしても、致命的なミスが一つでもあれば、不合格となってしまいます。
近年、作図や検討をしなければいけない建築基準法上のポイントが増え続けており、難問化の一途を辿っています。
ここでは、一発不合格となってしまう建築基準法違反や、空間構成や条件の不整合などの重大なミスについて、まとめています。

[目次]

建築基準法違反(ランクⅣ)

① 建蔽率

建蔽率 = 建築面積 / 敷地面積 は限度以下にしなくてはなりません(建築基準法第53条)。

建築面積は、建築物の外壁または柱の中心線で囲まれた部分の水平投影面積(庇等も含める)です(建築基準法施行令第2条第二号)。
基本的には、一番面積の大きい1階の外壁ラインに、全ての階の庇やバルコニーを考慮した面積となります。
光庭(全ての階で屋外となる箇所)は、建築面積に含まれません。
建築面積とその算定式は、面積表に記入します(書き忘れも一発不合格)。

建蔽率の限度は、問題文(Ⅰ-1. 敷地及び周辺条件)で与えられます。これは、準防火地域内における耐火建築物等の加算を含むと明記されているので、この値をそのまま計算に使用します。
建築面積が、敷地面積×建蔽率の限度以下となるよう、プランニング時に気をつけましょう。

建築面積には、庇、軒先、バルコニー、キャノピー、屋外階段などが含まれることに注意しましょう。
これらが外壁から1m以上突き出す場合、先端から1m以内の部分の面積は、建築面積から除かれます。
ただし、袖壁や支柱によって完全に囲われているものについては、全面積を参入します。
また、地階で地盤面上1m以下にある部分は、建築面積に参入しません。

② 容積率

容積率 = 延べ面積 / 敷地面積 は限度以下としなくてはなりません(建築基準法52条)。

延べ面積とは、建築物の各階の床面積の合計です(建築基準法施行令第2条第四号)。
吹抜や屋上(用途のない屋外エリア)は、床面積には含まれません。ただし、EVシャフト、PS、DSは、床面積に参入します。
延べ面積、各階の床面積とそれらの算定式は、面積表に記入します(書き忘れも一発不合格)。

容積率の限度は、問題文(Ⅰ-1. 敷地及び周辺条件)で与えられます。
延べ面積が、敷地面積×容積率の限度以下となるよう、プランニング時に気をつけましょう。

床面積については、問題文(Ⅱ-2. 面積表)に、ピロティ、塔屋、バルコニー、屋外階段、屋上設備スペースなどは参入しない(ただし、屋内的用途に供するものは除く)と明記されています(令和3年から)。
毎年、ほぼ同じ記載ですが、課題によって記載に変化があるため、きちんとチェックするようにしましょう。
ちなみに、令和2年までは、問題文(Ⅰ-2. 建築物)で、床面積の合計の範囲も指定されていましたが、令和3年以降はなくなっています。

バルコニーや屋外階段は、建築面積には含まれ、床面積には含まれないので、混同しないように気をつけましょう。
建築面積は建築の外形の水平投影面積で、床面積は屋内の面積です。

③ 高さ制限(斜線制限)

斜線制限には、道路斜線、隣地斜線、北川斜線の3種類あります。
一級製図では、斜線、勾配、最小後退距離、計算式(建物の最高高さやバルコニーの先端)を記載しなければなりません(問題文Ⅱ-1. 要求図面)。

【道路斜線】
住居系 :1.25×D
非住居系:1.5×D
D:(前面道路の反対側の境界線+最小後退距離)からの水平距離
最小後退距離:建物の外壁や庇先端、屋外階段から建物側の道路境界線までの距離
(建築基準法第56条第一号)

【隣地斜線】
住居系 :1.25×D+20
非住居系:2.5×D+31
D=隣地境界線からの水平距離
(建築基準法第56条第二号)

【北側斜線】
低層住居地域 :1.25×D+5
中高層住居地域:1.25×D+10
非住居系:なし
D:前面道路の反対側の境界線または隣地境界線からの水平距離
(建築基準法第56条第三号)

北側斜線による制限は、塔屋の高さが含まれますが、道路斜線と隣地斜線には含まれません(建築基準法施行令第2条第六号ロ)。

勾配や立ち上がりは、問題文(Ⅰ-1. 敷地及び周辺条件)に明記されていることが多いので、必ずチェックしましょう。

④ 外壁の後退距離・高さの限度

【外壁の後退距離の限度】
第1種低層住居専用地域、第2種低層住居専用地域、田園住居地域においては、建築物の外壁・柱面から敷地境界線までの距離は限度以上としなければならない(建築基準法第54条)。

【高さの限度】
第1種低層住居専用地域、第2種低層住居専用地域、田園住居地域においては、建築物の高さは限度以下としなければならない(建築基準法第55条)。

外壁の後退距離と高さの限度は、平成29年のリゾートホテルで出題されています。
後退距離や高さの限度は、問題文(Ⅰ-1. 敷地及び周辺条件)で与えられます。

⑤ 延焼のおそれのある部分

延焼のおそれのある部分とは、隣地境界線、道路中心線、同一敷地内の建物の外壁間の中心線から、1階と地階で3m以下、2階以上で5m以下の距離にある部分です(建築基準法第2条第六号)。
ただし、防火上有効な公園、広場、川(水面)、または、耐火構造の壁などに面する部分は除きます(駐車場は広場に該当しません)。
一級製図では、この延焼ラインと、境界線からの距離を記載しなければなりません。

また、耐火建築物は、延焼のおそれのある部分の開口部に防火設備を設けなくてはならないので、〇防の記号も記載しなければなりません(建築基準法第2条第九号の二のロ)。

一級製図では、例年、問題文(Ⅰ-1. 敷地及び周辺条件)で準防火地域が指定されており、かつ、延べ面積が1500㎡以上の規模で出題されるため、耐火建築物等となります。
課題によっては、問題文(Ⅰ-2. 建築物)で、耐火建築物が指定されていることもあります。
そのため、延焼のおそれのある部分の開口部に〇防の記号が必須となります。

⑥ 防火区画

防火区画は、面積区画、竪穴区画、異種用途区画、高層区画の4種類あります。
一級製図では、防火区画が必要な開口箇所に、防火設備なら〇防、特定防火設備なら〇特の記号を記載しなければなりません。
前述の④で解説した通り、一級製図は基本的に耐火建築物となります。

【竪穴区画】
準耐火建築物は、地階または3階以上の階に居室を有するものの竪穴部分(吹抜、階段、EVシャフト、DS、メゾネットなど)を、防火設備(〇防)で区画しなければなりません(建築基準法施行令第112条第11項)。
一級製図は、3階建て以上、または、地階のある2階建てで出題されるので、竪穴区画はほぼ必ず必要となります。
また、竪穴区画を特定防火設備(〇特)とすることで、竪穴区画と面積区画を兼ねることができます。

【面積区画】
準耐火建築物は、床面積が1500㎡以下となるよう、特定防火設備(〇特)で区画しなければなりません(建築基準法施行令第112条第項1項)。
前述の通り、竪穴区画を〇特にして、それでも1500㎡以下にできない場合、面積区画を検討する必要があります。

【異種用途区画】
建築物に特定の用途(別表第一)の室がある場合、特定防火設備(〇特)で区画しなければなりません(建築基準法施行令第112条第18項)。
例えば、令和3年では、集合住宅、飲食店、学習塾の3つの用途が要求されました。標準解答例にも示されている通り、それぞれの用途で直接アクセスが必要ない場合は、開口のない壁で区画してしまえば、〇特の記載を検討する必要がありません。

【高層区画】
11階以上の部分に適用されるため、出題されたことはありません(建築基準法施行令第112条第5項)。

⑦ 避難施設・廊下

以下の3つが、3階建て以上の建築物や、延べ床面積が1000㎡以上の建築物で適用されるため、一級製図では必須です。

【避難階段】
避難階段(屋内・屋外ともに)の出入口に防火設備(〇防)を設けなくてはならない。また屋外階段から2m以内に出入口以外の開口を設けてはならない(建築基準法施行令第117条、第123条第1項、第2項)。

【避難通路】
避難階段・出口から道路への通路の有効幅を1.5m以上にしなくてはなりません(建築基準法施行令第127条、第128条)。
また、この避難通路は直線でなくてはなりません。

【廊下】
廊下の有効幅を、両側に居室がある場合は1.6m以上、それ以外の場合は1.2m以上にしなければなりません(学校の場合は2.3m、1.8m以上)(建築基準法施行令第117条、第119条)。
一級製図の廊下は基本的に幅2mとなるようにしましょう。こうすることで、柱の突き出し等を考慮した有効幅を満たすことができます。
また、廊下にクランクがあると、ランクⅢになる可能性があるので避けましょう。

⑧ 二方向避難・歩行距離・重複区間

建築物の避難階以外の階が以下の用途である場合、その階から避難階に通じる直通階段を2つ以上設けなければなりません(建築基準法施行令第121条)。
用途:集会場、店舗、児童福祉施設、ホテル、共同住宅など
例年、問題文(Ⅰ-4. 留意事項)に、2以上の直通階段を計画するよう記載されています。

直通階段に至る歩行距離を以下の数値以下にしなくてはなりません(建築基準法施行令第117条、第120条)。

準耐火建築物の場合
・30m以下:無窓の居室
・40m以下:百貨店、展示場、飲食店など
・50m以下:上記以外

前述の④で解説した通り、一級製図は基本的に耐火建築物となります。
3階建て以上の建築物や、延べ床面積が1000㎡以上の建築物で適用されるため、一級製図では必須です。

二方向の避難経路における重複区間の長さは、上記の歩行距離の1/2以下としなければなりません(建築基準法施行令第121条第項3項)。

代表となる一室の奥から直通階段への二方向避難経路を記載し、歩行距離(短い方)と重複区間の距離を記入しなければなりません(問題文Ⅱ-1. 要求図面 特記事項)。

⑨ 採光補正係数

一級製図では、集合住宅や高齢者介護施設の課題で、住戸の採光確保の指定がありました(問題文Ⅰ-4. 留意事項)。
住戸や教室が予想される課題の場合、有効採光面積や採光補正係数の計算式を頭に入れておきましょう。

有効採光面積 = 窓の面積×採光補正係数 を 床面積×有効採光率 以上確保しなければなりません(建築基準法施行令第19条、第20条)。

【有効採光率】
・住戸:1/7(談話室は1/10)
・保育室:1/5
・学校の教室:1/5
・大学の教室:1/10

小さい住戸だと床面積20㎡程度なので、有効採光面積は3㎡以上必要となります。
ベランダの窓の面積はざっくり計算すると、天井高2.5m×間口3m=7.5㎡です。
つまり、採光補正係数は、3/7.5=0.4以上必要となります。

よって、採光補正係数は、余裕を見て、0.5以上とるようにすればいいでしょう。
採光補正係数の計算式は、以下になります。用途地域によって、式が異なります。

【採光補正係数】
住居系地域:(D/H)×6 - 1.4(≦3.0)
商業系地域:(D/H)×10 - 1.0(≦3.0)
D:隣地境界線から窓直上の外壁(パラペット)またはバルコニーまでの水平距離
H:パラペットまたはバルコニーから窓中心線までの垂直距離
(建築基準法施行令第20条第2項)

また、以下の条件だと採光補正係数は1.0となるため、計算の手間が省けます。
・窓が道路に面している場合
・窓が道路に面していない、かつ、Dが7m以上(商業系なら4m以上)の場合

住戸を道路面にする、または、ヘリアキ(隣地面)を7m取ることができれば、細かい計算をする必要がなくなります。
条件上、それが不可能な場合は、最も下の階の住戸~パラペットでみる採光補正係数が一番厳しくなるため、この値が0.5以上になるようにしましょう。
例えば、3階建ての1階に住戸を設ける場合で概算すると、{(0.5+1.4)/6}×{3.5×(2+0.5)+0.5}=2.93となるため、3m以上のヘリアキを取る必要があります。

法規以外の一発不合格ミス(ランクⅣ)

・要求室の欠落
・室の面積不足
・構造不整合(片持ち梁の抜け、大スパンの大梁や柱など)
・上下階の不整合(コア、バルコニー、PS、DS、EPSなど)
・未完(時間入れ)

ランクⅢとなるミス

・要求室の条件違反(隣接条件、向きや間口の指定など)
・室名や室面積の記載漏れ
・部門ゾーニングが不適切(原則、フロアゾーニング)
・廊下がクランクしている
・用途のない空間
・住戸、屋上庭園、共用室が北向き
・明るい指定の室で日照不足(南開口でない)
・ホールや室が不整形(辺長比2.5以下)
・室内レイアウトに無理がある
・管理人室からの視界に死角がある
・廊下が暗い
・寸法線、床レベルなどの未記載
・脆弱地盤の地盤改良がされていない
・基礎の種類、形状が不適切
・図が雑過ぎて分かりにくい

一級製図の難問化傾向に思うこと

一級製図の難問化は、平成30年に突然始まりました。
記載しなくてはいけない要素や、値に過不足がないか検討しなければいけない要素が、どんどん増えているのです。

平成30年:延焼ライン、防火区画、二方向避難、計画の要点のイメージ図増加(任意)
令和元年:斜線制限、計画の要点のイメージ図必須化
令和2年:採光確保指定、計画の要点のイメージ図詳細化
令和3年:採光補正係数、計画の要点のイメージ図詳細化(1/100程度)
令和4年:計画の要点のイメージ図詳細化(1/50程度)

今後も、要素の増加や検討の詳細化による難問化の傾向が続くかもしれません。
しかし、一級製図の難問化によって、若手建築士が優秀になっているかどうかについては、疑問があります。
上司世代は、難問化などつゆ知らずで、「今時の若手は~」なんて言っているのではないでしょうか?

近年の難問化以前から、仕事を優先する余り、一級建築士を取りそびれてしまう設計者は一定数いました。
学生の内に一級を受験できるようになって、若い世代が得をしたのに対し、資格を後回しにしてしまった人たちは、これからますます厳しくなっていくでしょう。
さらに言えば、意匠設計者はともかく、構造設計者は、高さ制限やら採光補正係数の知識など、実務で全く使わないのです。
平成26年までは、梁伏図+平面図2面だったのが、梁伏図がなくなり平面図3面になったのも、意匠優遇、構造冷遇の変化です。
一級製図で何度も落ちて苦労している構造設計者の方を見ると、悲しくなってきます。

また、難問化すればするほど、独学する人に不利となるため、資格学校依存が強まることになります。
大学や専門学校を出ているのに、資格学校が事実上必須という状況は、学費の二重取りのように思えてきます。
例えば、ITエンジニアの場合、国家資格はあるものの業務独占資格ではないため、実務経験さえあれば、取っても取らなくてもいいという業界です。
一級建築士を取らないと一人前と認められない建築業界は、若い世代からどんどん避けられていくかもしれません。

一級製図は、これからも難問化し続けるのでしょうか?
一級建築士試験は、建築業界の人手不足に拍車をかける疫病神と化してしまうかもしれません。

まとめ

一級建築士の製図試験において、一発不合格となる建築基準法違反や、致命的なミスについて解説しました。
それぞれの項目をしっかり覚え、ダメな理由を理解することで、合格になる図面を仕上げることができるようになります。